前回UVレジンに初挑戦したと書きましたが、うまくかたまらなかったことを受けてその後自分なりに調べたことを書き留めておくことにしました。
実用的な内容は殆ど含まれませんが、自分はこれらが府に落ちた後はちゃんと作れるようになったので、万が一自分と似た疑問を抱えている方の何かしらお役にたてることを願ってここに置いておきます。
工作用のレジンは、自分の子供のころからエポキシレジンやウレタンレジンなど数種が存在していました。紫外線をあてることで硬化できる今流行りのUVレジンと比べれば手間こそかかるものでしたが、分量を間違えなければ不器用な自分にも作れました。二液性のレジンは液を混ぜることで化学反応を起こすため、個人的には硬化現象というものを簡単にイメージできたのだと思います。
これに比べてUVレジンは、同じくUVで硬化するジェルネイルを昔からやっていて思っていたことでもあるのですが、
硬化する機序がわからなくていつも心にひっかかっていました。今回初のUVレジン工作でつまずいたことで、仕組みを理解しなければいよいよ先に進めないような気さえしてきました。
しかし工作や作品例の本やサイトを片っ端からひっくり返しても、かたまる仕組みについては一切触れられていません。推奨されている通りに専用のライトを買い、ブランドのレジン液を使えばきっとうまくいくのかもしれないけれど、ならばその理由をどうしても知りたく、調べました。調べた結果 未解決のものも、そのまま載せています。
1. UVレジンこと紫外線硬化樹脂は様々な分野で使われている
クラフトの世界では主にUVレジンと呼ばれていますが、工業の分野では「紫外線硬化樹脂」などと呼ぶのが一般的のようです。都立図書館で蔵書検索をかけたところ、さまざまな分野で多くの書籍がみつかりました。建築、工業、製造業、細かく言うと自動車や建築物の補修パーツ、各種接着剤、3Dプリンタ製品、地中に埋め込むケーブルを包む管やコンクリート(水の代わりにレジンを使う)など実にいろいろな場面で紫外線硬化樹脂が使われているようです。
より身近なところでは歯医者さんで行われる歯の修繕にも使われていたようです。使われていた、というのは非常に古い本しか見つからなかったので最新の技術では違うものが使われているのかも知れないということです。
この歯科技工関連の古い雑誌に、UVでレジンが硬化する仕組みが最もシンプルかつわかりやすく紹介されていたので、以下に引用させていただきました。
2. UVレジンが紫外線で硬化する仕組み
以下の図表は紫外線硬化樹脂の硬化の機序を示すものです。
[参考]「光重合型レジンの臨床応用」(クインテッセンス出版)より
『光重合型レジンとはどんなものか』(増原英一・著)
この図表は、参考資料から抜き出し噛み砕いた文章に自作の絵を勝手につけたしたものです。この本のおかげで、硬化の仕組みがだいぶイメージできました。
重合反応そのものについては、モノマーの構造や反応の持続性によっていくつも種類があり、クラフト用UVレジンなどに用いられる重合は
ラジカル重合に分類されます。
3. ラジカル重合の特徴
■ 熱による反応促進
2.の図表にも記載のある通り、重合反応の際には熱エネルギーが放出されます。UVレジン工作やジェルネイルをする人々にとってこれは周知の事実です。硬化させる途中で作品や爪が熱くなります。ラジカル重合の特徴として、この放たれた
熱エネルギーがまた重合反応を加速するというものがあるそうです(2.の図表の参考資料より)。実際、硬化速度を上げる目的で暖かい部屋で作業することを勧めている本もあります。
ちなみにこの熱と関係あるのか、自分の試したところでは、顔料や他の封入物を一切加えない透明なレジン液を硬化する際、少量のときより大量のときのほうが目に見えて硬化が速いです。
大量のレジン液を硬化させる過程では少量のそれよりとても熱くなるため、その熱が大きいほど重合を加速させるのではと予想しています。が、
「UVレジン液は多いほど硬化に時間がかかるので小分けに加えながら硬化すること」と真逆の事を説いている(封入物の有無には触れておらず)サイトも存在し、真相は不明です。
■ 酸素による反応阻害
ラジカル重合のもうひとつの特徴に、
酸素による阻害を受けやすいというのがあるようです。(
[参考] 光重合開始剤の現状と課題 大和真樹 日本印刷学会誌 40 (3), 168-175, 2003)モールドに流し込んだUVレジン液を硬化した際、内部やモールドと触れている部分は硬化しているのに、空気に触れている部分だけベタベタ(=硬化不良)だったりするのもこれで説明がつきます。
この酸素による重合阻害について書かれた様々な資料のなかから、上の論文を紹介させていただいた理由として、5ページ目に「
酸素の重合阻害による重合遅延」という表現があります。つまり、重合「不可」でなく「
遅延」ですから、時間をかければ硬化不良を回避できると考えられます。ベタベタしても、もう無理だ限界だと諦めないで紫外線を照射し続ければよいのです。
■ 重合反応時の収縮
これもUVレジン工作をする人々にとっては悩みの種ですが、硬化する際にレジンが縮んでしまう現象についてです。とどのつまり、程度の差こそあれど
各種重合反応において収縮現象はどうしても避けられないというのが化学的通念のようです。特にラジカル重合においてはこの収縮率が高く、克服すべき欠点として議論されています。収縮率を下げるための新しい技術を紹介する文献や、商品を開発している企業が多数見受けられます。また、クラフト用のUVレジン液でも、収縮率が小さいことをうりにした製品が存在します。
これらから見てとれるのは、
コストをかければ収縮率を下げることは不可能ではなさそうということです。ただ、それを許すならばもはやラジカル以外の別種の重合(たとえばカチオン重合など)という選択肢もありますから、いずれにしても現状ラジカル重合が使われている場面では、コストとその他特性を考慮したさい一番バランスが良いということなのでしょう。
したがって、モールドに流し込んで硬化したレジンがたとえ縮んでしまっても、それ自体は悲観しないことにしました。化学的に無理と言われれば諦めもつきます。仕方がないので縮んで汚くなってしまった場合の対策を自分なりに考えてみました。
- 大きく収縮してモールドとの間に隙間ができてしまったような場合は、その隙間にレジン液を追加で流し込み、再度硬化させる。
- あるいは、隙間ができるほどでなくとも表面が汚くざらついた場合などは、ネイルファイルやネイルバッファを使って研磨する。
- そもそも平面でないためこれらのやすりが使えないという場合は、最終手段としてハケでレジン液を塗って再硬化するか、ネイル用のトップコート等を塗る。
これらをするのはかなりの手間なので、どうしても縮みが気になるならば、少々高くても収縮率の低いレジン液を使うのが得策かなと思います。
4. クラフト用UVレジン液の成分はなんなのか
ところで、クラフト用UVレジン液の成分について、各社製品の成分欄を見ると表現がまちまちなことに気づきました。
製品A:アクリレートプレポリマー
製品B:特殊アクリレート樹脂
製品C:アクリル系紫外線硬化樹脂
要するにどれも
アクリル樹脂ということなんですが、気になったのは
プレポリマーという表記です。
プレポリマーというのは、モノマーとポリマーの間の規模の分子。Wikipedia によれば、
モノマーが2個から20個くっついたものをプレポリマー(オリゴマーとも)と呼ぶそうです。それ以上にたくさんくっついてるのが
ポリマーです。
先に調べた重合の仕組み(→
2. を参照) では、UVレジン液の主剤はモノマーと書かれていたけれど、クラフト用のレジンはプレポリマー?どうして??...ここまで知ったところで何にどう役立つのかという気もしますが、一度疑問に思うとどうしても知りたくなります。しかし、クラフト用UVレジン液の成分の詳細は、やはり本でもネットでもどうしても見つかりませんでした。
そこで、なるべく近そうなものということで...
3Dプリンタの材料としての「光硬化性樹脂」の成分を見つけたので以下に引用させていただきます。
(a) モノマー
(b) オリゴマー
(c) 光重合開始剤
(d) 各種添加剤(安定剤、フィラー、顔料など)
著者の萩原恒夫さんはホームページにて3Dプリンタに関する情報を発信していらっしゃるのですが、その材料としてのUVレジン液の組成や硬化機序について触れているのが上のページです。工業製品よりこちらのほうがよりクラフト用レジン液に近そうと思い引用させていただきました。
萩原さんのホームページ
(上のページだとトップへのリンクがないので)
▶
HAGIWARA AM and 3DP Home Pages
(化学の素養がないため、重合について調べる段階で最初からここにたどり着けなかったのが残念です。検索時のキーワード指定に問題があったようです...)
成分の話に戻りますが、引用箇所の (c) 光重合開始剤 というのは即ち先述の光増感剤のことで、必須成分のひとつと思われます。主剤のひとつである
(b) オリゴマー は先述のとおり
プレポリマー のことです。つまりクラフト用UVレジン液にも、モノマーとプレポリマー両方含まれているということかもしれません。あるいはプレポリマーのみか...
もやもやを晴らすべくこのあと様々な工業製品の文献を読みすすめていったところ、どうやら、この
モノマーとプレポリマーの種類や配合で樹脂そのものの性質が決まるようだということがわかりました。
なるほど、結論これに尽きるということですね。目の前に果てしない海が広がった感じ(>_<)...なのでこれ以上掘り下げるのは諦めました。各製品の成分をどうしても知りたいなら、メーカーに問い合わせるのが一番早そうです。
最後は、硬化の肝である光についてです。
5. 光線と励起波長について
クラフト用UVレジン液を硬化させるための光について、本題に入る前に我が家の装備をもう一度紹介します。
【レジン液】
製品名:クラフトアレンジ[クリア]ハードタイプ
販売元:ケミテック社
硬化に必要な光:LEDライト(365 ~ 405nm)・UVランプ・太陽光
【ライト】
ジェルネイル用の
LEDタイプのUVライト
ワット数:3W
波長:405nm
UVレジン工作を真剣にやっている方はきっと、レジン液には有名どころのKIYOHARA製ものを使い、UVランプも 36W もしくは 9W のものを使っていることでしょう。一方、我が家のレジン液は練習用とも言われる最も安価な製品で、ネットや手芸店でよく売られているものです。そしてライトはジェルネイル用の 3W のもの。
硬化不良に陥った理由が液にあるのかライトにあるのか、はたまた両方なのか。ライトが原因だったとして、W数なのか波長なのか・・・などが気になりました。レジン液の説明書を見る限り、自分のLEDライトでも波長の条件はクリアしているのですが、インターネットで調べると、「LEDライトのなかでもペン型ライトでは硬化は無理」と書かれているページもあり、理由もわからず不安が募るばかりでした。
まずはそもそも光源について、子供にも聞かれたのでおさらいしておきます。
昔はUVランプといえばまず蛍光灯タイプでした。LEDはというと長いこと青色が存在せず(したがって白い光も作れなかった)、青色LEDを発明・実用化させた日本人化学者3名は2014年にノーベル賞を受賞しました。この青色LED誕生と普及にともない開発された新しいUVライトが、いまレジン工作やネイル界で「LEDライト」もしくは「LEDタイプのUVライト」と呼ばれているものです。
LEDは蛍光灯より長持ちするので、ジェルネイルにはまっていた当時の自分も当然LEDタイプに買い換えました。引っ越しのどさくさで捨ててしまいましたが、この頃のLEDタイプUVライトの波長は 365nm がふつうでした。ただ、この波長は目にあまりよくないそうで、ごく最近出回っているのは、改良され目に優しい波長 405nm のものが多いようです。
話が飛びますが、紫外線というキーワードで様々な本をひっくり返していたところ、鉱物の本にこのような図をみつけました。身のまわりの光線と波長についてわかりやすいので、手書きで摸写させていただき帰宅後エクセルで起こしました。
[電磁波と波長]
[出典] 「鉱物の博物学」(秀和システム) より
『X線・紫外線への反応』
※単位について...
1 fm (ファムトメートル) = 1/1000 pm
1 pm (ピコメートル) = 1/1000 nm
1 nm (ナノメートル) = 1/1000 μm
1 μm (マイクロメートル)= 1/1000 mm
この図に添えられていた文章を要約すると、
光に反応する物質が反応 (=励起反応)を起こすために必要な波長を励起波長というのだそうです。この言葉、紫外線硬化樹脂関連の文献にたびたび出てくるキーワードです。
ちなみに、太陽はこの図中のすべての線を放っているそうです(怖っ)。ただし、約 300nm より短い波長のものは、オゾン層でブロックされるため地上へは届いていないようです。
逆を言えば波長 300nm 以上は地上に届いているということですから、太陽光でUVレジン液が硬化するのも納得いきます。でも、晴れた日に屋外で放置してもライトより硬化に時間がかかるのは、光線の量が少ないからということでしょうか。太陽光の各波長と線量の関係がわかる資料を探しましたが、見つかりませんでした。
次に、上の図をヒントに紫外線の部分だけを図にしてみました。
先に紹介したように、我が家で使用しているレジン液の励起波長は 365 ~ 405nm とされているので、太陽光はもちろん、各種UVランプ・ライトが使えるように作られたものなんだなとわかります。まあ説明書の通りです。
自分のライト(405nm)が、使用するレジン液の励起波長と間違いなく合っていることを確認できたところで、残すところはやはり光線の量がポイントでしょうか。波長が合っているならなぜ硬化不良になったのか...。
ここでやっと光源のワット(W)数について考える余裕がでてきました。ワットとは電力のことですから電球や光線の量を直接表すものではないけれど、比例していることは間違いなさそうです。また、ワットは電力といいましたが、つまり
1Aの電流に対する仕事率(1秒あたりのエネルギーがどのくらいか)なので、その
仕事率が低いならばその分時間を与えてやればいいと考えられます。
すると「W数が小さいライトでは硬化しない」のではなくて「
硬化に時間がかかる」が正しいのでは?と予測がつきます。はたして照射時間をひたすらのばしてみたところ、...なんとしっかり硬化したのです。
使用したレジン液の量や、ライトの電池を入れ替える前後でもかかる時間が変わりましたが、具体的には5分~10分くらい要しました。レジン液の説明書に記載されている所要時間めやすは「9Wライト使用で約3分」なので、もしかしたらワット数と硬化所要時間は必ずしも正比例していないようです。
しかしどうやら、
励起波長であればW数すなわち光量が少なくても時間をかければ硬化できることがわかりました。
....ならば、部屋のLEDシーリングライトはどうなのか?実はこちらも試してみました。
LEDシーリングライトの各メーカーのサイトを調べると、どの製品も
波長 400nm ~ 800nm 間の光を放っているようです。波長ごとの光量がわかりやすいグラフが
こちら にあります。このグラフ曲線も各社製品においてほぼ同じです。つまりLEDシーリングライトからも、我が家のUVレジン液の励起波長である 405nm がわずかに放たれているということです。
そこで、レジン液をモールドに入れただけでカーテンを開けない部屋に放置しておいてみました。すると、なんと4日後、忘れたころに硬化していました。最初の二日では硬化していなかったので(三日目は確認忘れ)、つまり3~4日目のあいだのいずれかに硬化完了したことになります。ただ、部屋のカーテンは二級遮光なので、わずかに入った紫外線が影響を与えた可能性も否定できません。ほんとうに部屋のシーリングライトだけで硬化するのかどうかは、環境を整えて再度検証しなおす必要がありそうです。
調べたことは以上です。
乱文になってしまいました。後日読み返して気付いたところから修正します。
またなにか調べたらそれも追記します。
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[UVレジン]